この訪問販売物語は、営業マンのみなさんの参考になればと、私の過去20年間の営業人生を出来るだけリアルに振り返った物語です。
GW(ゴールデンウィーク)初日。朝、5:30にかかってきた1本の電話が私の営業マン人生を大きく変える事になるとは、その時は思ってもいませんでした。
目次
現状の生活に慣れつつあった営業マン
「今日もジャイアンツ戦でも見るか!」
飛び込み営業の時には、夜の9時まで飛び込み続け、それから帰社して雑務をこなす…
こんな生活をしていましたので、好きな巨人戦を観ることなどできませんでした。
ところが、お土産屋さんのルートセールスの会社に入ってからは時間に余裕が出来るようになったんですね。
お土産屋さんが忙しいのは「トップシーズン」だけです。しかも、本社の時は片道3時間半の遠い地域を担当していましたが、町田営業所に来て担当しているテーマパークなどはほとんどが近場。遅くても夜の7時には仕事が終わります。
まぁ、不満というほどでもありませんでしたが、敢えてあげるとしたら収入(給与)です。
ずいぶん昔の話なので、はっきりと覚えてはいませんが、確か額面で24万くらいで、そこからもろもろ引かれて、6万5千円の家賃を払っていたので、余裕はあまりありませんでした。(自己都合の転勤だったので、家賃補助がなかった)
プライベートで言えば、しばらくいなかった彼女が出来ました。薬剤師を目指している薬科大学の学生さんです。
こんな状況でしたので、飛び込み営業のやっただけ収入に跳ね返ってくる「成果主義」「実力主義」のときを懐かしく感じながらも、現状の生活に慣れてしまっている自分がいました。
激怒した男からの早朝の電話
GW(ゴールデンウィーク)がやってきました。前回お話ししたとおりいわゆる「稼ぎ時」です。
早朝4:30に起きて、眠気覚ましにシャワーを浴び、「よっしゃ!頑張るぞ!!」と気合十分で出かけようとしている時に電話が鳴りました。
RRRRR… RRRRR…
「ったく、こんな早朝から間違い電話かよ」
受話器を取ると、驚くような一言を言われます。
「お前が白井か!?」
その激怒した男の正体は群馬県に住む彼女のお父さんでした。
「今からそっちに行くからな。逃げるんじゃねーぞ」
もうとにかくお父さんは激怒していましたが、トップシーズンの仕事に穴を空ける訳にはいきません。
「すみません、どうしても仕事に穴を開けられません。なるべく早く切り上げますので、夕方以降にして頂けませんでしょうか?」
丁重にお願いして、何とか夕方の6:30分にしてもらいました。
その日、どのようにして仕事をしたのかは全く記憶にありません。
彼女のお父さんの激怒している理由
「朝からごめん。今、お父さんから電話あったんだけど…」
彼女に電話すると、既に彼女のところにも連絡があったようで「ごめんね、忙しいときに…」と言われました。
とにかく話を聞いている場合ではなかったので、ちょっと時間が空いた昼過ぎに彼女に電話すると理由はこうでした。
「彼氏が出来た。将来結婚するかもしれない」
お父さんも喜んでくれると思って報告したら激怒したらしいんです。
正直、これには私も驚きました。それは、その彼女と付き合い始めて1ヶ月経つか経たないかという状況だったからです。
「結婚って…」そう思いましたが、逃げる理由もありません。私は、超マッハで仕事を終わらせ、菓子折りを用意して夕方の6:30に間に合わせました。
猜疑心バリバリの父親が発した信じられない言葉
彼女に連絡して決めた、待ち合わせ場所の鶴川駅に車で迎えに行きました。
なんとも言えない気持ちで待っていると、明らかに不機嫌そうな父親とその後ろについてくる彼女が来ました。
「遠くから来ていただいてすみません。白井と申します…」
全く無言の父親に「どうぞ」と促し、取り敢えず車に乗ってもらうと、私はこう言いました。
「すみません、私の住んでいるところは6畳一間のワンルームマンションで狭いので、近くのファミリーレストランでいいでしょうか?」
3人乗っている車中は返事も会話もなく、気まずさ100%。ファミレスに到着して車を降り、やっと息の詰まりそうな車内から解放されたと思ったら、次の瞬間、予想だにしない言葉が耳に飛び込んできました。
「この車は、君の車かね?」
そうです、彼女の父親は私がわざわざこの為に誰かから車を借りてきて、カッコつけてるんじゃないか!?と、そこから疑っていたのです。
人前で受けた屈辱とぐうの音も出ない自分
「頼むから空いていてくれ」
どのような状況になるのかは目に見えていましたので、祈るような気持ちでファミレスに入ると、ほとんどの席が埋まっていました。案内された席は、両側に人が座っている間の席。
憂鬱な気持ちで、食べる気もないピザを注文すると、父親から矢継ぎ早に質問をされます。
「学歴は?」
「仕事は?」
「収入は?」
周りのお客さんもピリピリムードに気がついたんでしょう。見て見ぬふりをしてくれてはいますが、完全にこちらの様子を伺っています。
そんな状況の中、しばらくの沈黙のあと、お父さんはこう言いました。
「娘とは別れなさい」
予想通りといえば、予想通りの展開ですが、私も車を疑われ、取り調べのような質問をされ、その上いきなり「別れろ」と言われて腹がたっていました。そして、こう言ったんです。
「お言葉を返すようですが、別れろと言われても全く意味がわかりません」
すると、彼女の父親はこのように続けます。
「君はうちの娘が薬剤師を目指しているのは知っているよな?じゃあ、今大学に通わせてるけど、月にいくら学費がかかっているのかわかるかね?月14万円だよ。君は私に代わって学費を払えるのかね?」
冷静に考えてみれば、よくわからない言い分です。
しかし、私はとても悔しかった。男として情けなくみじめに感じました。
そんな状況だったので、最後にすっかり渡すのを忘れていた菓子折りを出すと、お父さんは受け取らずに、しかも、歩いて彼女と駅へ向かって去って行きました。
営業マンとして転職を決意
数日後、彼女と改めて会って話を聞くと、やっと事情がわかりました。
彼女の父親は上智大学出身で、バリバリ仕事の出来るタイプだったのですが、事情があって脱サラ。地元に学習塾を開いたのですが、年々経営が大変になり苦労していたので、娘には苦労をさせたくないと思っているようなのです。
「結婚するなら医者か弁護士にしろ!」
こんなことを普段から言われているらしかったんですね。
そんなところに、海のものとも山のものともわからないお土産屋さんの営業マンが現れたのですから、将来薬剤師を目指して薬科大に通っている娘には不釣り合いだと思ったのでしょう。
もんもんとした日々、そして転職を決断
こんな一件があっても彼女のことは好きでしたので、別れることなく交際は継続していました。
しかし、私は悩み続けていました。
「彼女の父親の言うことを素直に聞く必要はない。でも、もし俺に経済力があったら、少しはこの状況が違っていたかもしれない…」
その一方で、こんなことも思っていました。
「山梨で職探しをした時に、茶髪の俺を採用してくれたのも、自己都合で都会に戻ることに決めた時に、町田の営業所への転勤を勧めてくれたのも社長だ。社長を裏切るわけにはいかない…」
しかし、こんな気持ちが抑えきれなくなってきたんです。
『「学歴や経済力で判断するな」とは簡単に言える。でも男としてそれでいいのか!?言い逃れや言い訳みたいに思われ続ける人生でいいのか!?』
こんな風な思いが抑え切れませんでした。
そして、彼女が国家試験浪人することになり、翌年合格するまで遠距離恋愛になることがきっかけとなりました。
「どうせ彼女と離れ離れになるんだし、この1年間死ぬ気でやってやる!」
安月給だとはいえ、安定したルートセールスの世界を飛び出し、フルコミッション、実力主義の営業マンに転職することにしました。
ちなみに、もし、あのような事がなければ今もその当時勤めていた会社にいたかもしれません。
懐かしくなって、会社名で検索したら今もその会社は健在でした。本当によくして頂いたので、今でもその会社のファンです。
さて、ここしばらくルートセールスの会社のことを書いていましたが、次回からは、新しい営業会社でのお話になります。
飛び込み営業や新規開拓のノウハウや実話も含めて書いて行きますので楽しみにしておいてくださいね。